そして、《変態》という人種が生まれた――⑱

susa

そして、《変態》という人種が生まれた――⑱

ヴィンランド・サガ「オレは逃げる」ss   
ヴィンランド・サガ より トルフィン 戦争に参加したくて幼児期に父親の船に密航してしまったことから、枢機な運命を辿った青年。父親は船旅の途中で罠にかかって命を落とす。トルフィンは、こんどは敵討ちのために、父親を殺したバイキングの船に潜り込む。そして、ひたすら血塗られた殺戮の日々を生きる。ところが、ある事件をきっかけにトルフィンは奴隷となり、生きる目的を見失い、腑抜けのように生きることとなる。しかし、この奴隷時代に知り合った友人との出会いをきっかけに変わり始め、これまでの殺戮の日々が如何に罪深いものであったかに気が付き、今度は、これまでの罪滅ぼしとして、争いと奴隷のない理想の世界を築きあげるために残る命を使おうと決める。「略奪も殺害も強者の特権」という価値観が根付いていた時代にあって、彼のたどり着いた価値観は、相当な《変体》ではあるが、現代人の我々から見ると、殺戮や略奪の中で生きる者たちが異常で、トルフィンは至極まっとうな人間にうつる。画像は、イングランドを継承したクヌート王に謁見するため、兵士に100発殴られても倒れないでいられる、という賭けをした直後のもの。

 この記事はそして、《変態》という人種が生まれた――⑰の続きです。

 この漫画の主人公、トルフィンも、昨日の銀河英雄伝説のヤン‥ウェンリーと同じような考え方をするキャラクターです。ただ、ヤンは作品中、一貫してあのような性格で変わりませんが、トルフィンの場合は、
《変体》、もとい、激変します。
 人を殺すことに、全く痛切を感じなかった彼が、「人を殺すのは金輪際嫌だ」と怯えるようになったのです。そして、そんな現在の彼のほうが、血まみれの人生を歩んでいた頃よりも、千万倍も好感が持てます。
 ところで、私はヴィンランド・サガと聴くと、どうしても、とある人物を思い出さずに入られません。
 それは、「古谷経衡」という方です。
 以前、私はチャンネル桜という【自称‥保守系団体】のシンパをしていた時期があります。
 この古谷という方は、そのチャンネル桜の中で、「若者代表」みたいな形で、様々な場面で活躍をしていた方で、筋金入りの《変体》、もとい、ヲタクさんでした。そんな彼が、盛んに押していた漫画が、このヴィンランド・サガでした(時期的に、冒頭に貼ったトルフィンの画像が作中で使用された頃だったと思います。それで、私の中で一層強く、古谷氏と結びついたのでしょう。話が急展開して、面白くなってきた頃だったので)。

 この古谷という人物も、右にも左にも馴染めなかったような感じの人で、(傍から観た限りでは)かなり優遇されているように感じられたのですが、チャンネル桜から離れて(逃げて?)ゆきました。

さくらじ(古谷・SAYA)
(インターネット・ラジオ)さくらじ より 古谷さん(左)とSAYAさん(右) これといった実績があるわけでもないのに20代で自分の番組持たせてもらえたり、出版物の宣伝をさせてもらったり、かなり恵まれた環境に見えたのですが、私がチャンネル桜から離れていった後、彼も同チャンネルから去っていました。まぁ、いろいろあったんでしょうけどね。ところで。この人は、若干、私とポジションが重なるようでなんか嫌です。ムズムズする。だけど、「さくらじ」という番組は、毎回様々なゲストを招いて基本的に3人〜4人で話をすすめるという対談番組でしたが、かなり面白かったです。ヲタク色全開で自説を展開し続ける古谷さんに対して、SAYAさんが本気でドン引きだったりする所が、特に面白かったです。

 私は、このチャンネル桜という所は、現在の「保守思想ブーム」の火付け役のような存在だったと認識しています。2009年に始まった民主党政権時代の中、小沢一郎氏が強大な権力を握り、かなり強引な政治運営を行っていたことは、みなさまもご記憶だと思います。

鳩山&オバマAA
鳩山元首相とオバマ元大統領のアスキーアート 当時の日本の状況を見事に表していた、アスキーアート。鳩山氏のAAは、膨大な領が作られ、インターネット上を賑わせた。今にして思えば。、あの頃が、「古き良き日本」の最後のヒトコマだったのでしょう。一見、世の中はあの頃と少しも変わっていないようにも見えて、よくよく目を凝らすと、何もかもが一変してしまっています。あの時、「民主党」がもう少し大人の政治を心がけてくれていたら……、と、惜しまれてなりません。

 当時、まもなく中国の最高指導者となると目されていた習近平氏(実際、この人は中国の最高指導者になりました)が訪日した際に、日程を強引に割り込ませて天皇陛下と面会するように調整した際に、これが「弱腰」、あるいは「国辱」であるとして、その辺りから、猛烈に「反中国」の機運が高まったのですが、その中心にいたのが、チャンネル桜であったと、私は認識しています。同じように、この前後に「民主党が嫌いでいろいろと情報を集めている内に、チャンネル桜にたどり着いた」という方は少なくないと思います。

水島総s
日本文化チャンネル桜 より 水島総氏 チャンネル桜の代表取締役で、愛称は「社長」。主張していることは至極まともで、街頭デモや船で尖閣付近への出航、あるいは東北大震災直後の、放射能の状況がどれだけのものか全く判らない状況下の被災地へ、トラックに物資を満載して乗り込み、避難者達に提供するなど、政治的な活動を積極的に行っていた。この人に心酔している若者も多いのではないかと思う。私も、「この人は信頼できる」と思っていた時期があったが、どんな問題提起がなされても、安倍晋三という人物に対する評価が、「安倍政権断固支持」で固定されてしまっていることに気がついて、私の場合は、「この人の思考は(何がしかの理由で)停止している」「この人は、永久に《安倍ループ》から抜け出せない」という結論に達しました。

青山繁晴
日本文化チャンネル桜 より 青山繁晴氏 当時の肩書は「株式会社独立総合研究所社長」で、現在は参議院議員。私がこの人を知ったのも、チャンネル桜を通じてだった。初めて観た時は、ものすごい違和感を感じた。違和感の正体はすぐに解った。私に似てる所がかなりある……。それはさておき、武士道や愛国心について熱く語る姿勢は、見るものをグイグイと引きずり込む強い力を持っている。しかし、注意深く観察してゆくと、「この人の言っている事は、何処かオカシイ」ことに気がつく。民主党時代に持ち上がったTPPには猛反対しておきながら、自民党政権に変わると、手のひらを返したように賛成をする。農業問題も、「日本の農業は競争力がある」とか言って、農業の自由化をさせようとする。未成熟な者が議論に紛れ込んでも、場を混乱させる要因になるだけだというのに、「国政」という最も大切な行為に未成年者を参加させようとする。戦争は防衛側が圧倒的に有利だというのに、敵国に軽装備で乗り込んで核ミサイル基地を制圧する特殊部隊を作るという、とんでもない私案を誇らしげに語る(万全の警備体制で待ち構えているミサイル基地に特殊部隊を何百人送り込もうと、返り討ちに合うだけ)。日本の武士道は「嘘をつかない」という事を大切にしてきた。みたいなことを言っておきながら、本人は時折、重大な嘘を交える。ナドナド。ちなみに、この青山繁晴さんに対しては、「ネトウヨの教祖(グル)」という、強烈なニックネームがつけられている。あと、この人はしばしば「自分は霊感がある」とか「神様にハグして貰いたい」とか言うんだけど……。神って怖いよ。

 私は、水島さんの「(何があっても)安倍さんを信じる」という主張や、青山さんの「フェア精神」を語りながらアンフェアなジャッジメントを行うという「盲信」や「二枚舌」には、付き合いきれなくなりました。
 そして、2013年の10月、安倍首相の「消費税を予定通り8%に引き上げます」という発表を受けて、「この連中は、保守じゃない」
「保守の仮面を被って、裏ではまったく違うことを目指している」と考えるに至りました。

 また、青山さんの主張というのは、分析すると一目瞭然なのですが、「日本ではなく、アメリカに都合が良い事」を彼は主張しています。
 選挙権年齢を18歳に引き上げて、日本の国政が迷走するのも、日本が他国の核武装に対して有効な対抗手段を持たない状態のままでいるのも、日本の泣き所である農業を保護するどころか自由化してしまうのも、「愛国者の主張と受け止めると理解しがたい」のですが「アメリカの国益を再優先に行動していると考えると、腑に落ちる
のです。
 そして、アメリカという国は、外国に自国のエージェント(工作員・協力者)を作って、それらの人々を使って自国に都合よく他国の政治を操作している国です。
(他ならぬ青山さんが、そういう主張をくり返しなさっていたわけです)

 ただ、チャンネル桜を心から信じていられた頃は、「楽しかった」「幸福だった」ことは、紛れもない事実です。
 そりゃ、そうです。
「日本人は素晴らしく、世界中の国々から尊敬されていて、悪いのは全て中国と韓国と北朝鮮」「だから、それらの国々に負けないように防衛力を強化して、それ以外の国に親切にして、正直に生きていれば、サンタさんがプレゼントを持ってきてくれる〜
 みたいな、ご気楽な世界観ですから。
 話題になるのは、「中国の非道」「韓国の異常」「北朝鮮の狂気」「ニッポン万歳」。
 そういう世界観にどっぷりと浸っていると、「頭の中に中国、韓国、北朝鮮をイメージして、それをやっつけていることを想像すれば、幸せ」になれます。
 そして、かっこ良く戦って死んでしまった自分が、天国へゆくような状況を想像する……

 あぁ。これって、
ヴァルハラ思想じゃないですか。

ヴィンランド・サガ「ヴァルハラ」s
ヴィンランド・サガ より 勇敢に戦って死んだ戦士を迎えに降りてきたヴァルキリー(戦乙女) 北欧神話では、主神オーディンが、いずれ訪れるラグナ・ロク(神々の終末戦争)を共に戦ってくれる勇敢な戦士を探し求めており、眼鏡にかなったものはヴァルキリーによって戦士の館(ヴァルハラ)に歓待され、ラグナ・ロクの日が訪れるまで、永遠の処女達と共に、酒と快楽の日々に浸れる、という考え。なぜ、北欧にこのような世界観が生まれたかというと、おそらくは、究極に貧しく、略奪を肯定する必要があったからである。そして、もうひとつ。貧しいが故の教育の致命的欠落。そこからくる精神的成長の阻害である。

 チャンネル桜(というか、現在保守を自称している人々)というのは、ヴァルハラ思想を信じたかつての北欧の人々に、精神的に非常に近いのではないかと考えます。
 要するに、ヴァイキング達です。

 強いものが弱いものを殺すことは当たり前で、弱者の運命は死ぬか奴隷。強い者が全てを奪ってゆく。

 グローバル経済をあっさりと受け入れてしまい、経済的な格差が拡大してゆくことにまるで痛切を感じないそれらの人は、「保守」でもなければ「サムライ」でもなく、粗暴で残忍なヴァイキングにそっくりなのではないかと考えるのです。

ヴィンランド・サガ「クソども」
ヴィンランド・サガ より ヴァイキングの頭領であるアシュラッドの、ヴァイキングに対する評価 アシュラッドは、とても聡明な人間で、略奪と殺し合いの連鎖から抜け出せないヴァイキング達に、未来などないと解っていたはずである。だが、神ならぬ単なる人間に過ぎない彼は、虚しいと解っていても、その略奪と殺戮を生業にしなければ生きて行けないことも熟知していた。なお、ヴィンランド‥サガの主人公であるトルフィンが殺戮の世界で生きるきっかけを作ったのは、このアシュラッドという人物である。人質を撮ってトルフィンの父を殺害したため、トルフィンはアシュラッドと決闘し、彼を殺害することを目標に生きるようになった。

 なぜ、ネトウヨはかくも攻撃的なのでしょう?
 その答えは、トルフィンがなぜ、他者を傷つけることを忌み嫌うようになったかを考えることで、見えてきます。

 トルフィンに、一体何があったのでしょう?
 どうしてトルフィンは、別人のように変わり果ててしまったのでしょう?

ヴィンランド・サガ「昔は……こんなこと思いもしなかった」s
ヴィンランド・サガ より 少年時代のトルフィン 数えきれないほどの人の命を、心の呵責を全く感じず、ただ「そういうものだ」と思って、奪ってきた。しかし、成長して、他者と殺しあい以外の形の付き合いを重ねてゆく内に、彼の中に、これまでとは全く異なる価値観が芽生えた。
 こういうことを、《変態》になった、などとは決して言いません。
 古来から、こういう変化は「大人になった」と表現されます。

 幼い頃、戦争ごっこが大好きで、戦場で沢山の敵を倒すことが素晴らしいことだと信じ切っていたトルフィンは、他人の痛みを理解できるようになり、「幼児」を卒業して、大人になったのです。

 つづく

スポンサーリンク

Posted bysusa

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply