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そして、《変態》という人種が生まれた――⑩

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そして、《変態》という人種が生まれた――⑩
キャスバル・ダイクンss
シャア・ダイクン(シャア‥アズナブルがネオジオンの総帥当時に名乗った名前) 近代的軍隊の総帥になったにもかかわらず、シャアはモビルスーツに乗って戦場で戦闘行為を繰り返した。このことに関しては、《変態》というよりも、《頭がおかしい》か、もしくは、《一連のネオジオンとしての軍事行動に、全く関心がなかった》と解釈すべきであろう。単純に、《久しぶりに、モビルスーツで暴れたい》と考えていただけの可能性も、まんざら否定できるものではない。

 
この記事は
そして、《変態》という人種が生まれた――⑨ の続きです。

 今回の本文はここから。

 キャスバル‥レム‥ダイクン(シャア‥アズナブル)という人間の、生涯最大の不幸は、実父ジオン・ズム・ダイクンが「ニュータイプ思想」の提唱者であったことだと思われます。
 これによって、彼は眼には見えない呪縛に生涯囚われることとなります。

 自分はニュータイプ思想の提唱者、ジオン・ズム・ダイクンの長子である。
 故に自分は、ニュータイプでなければならない。

 という呪縛です。

 そして彼は、心理学者
ジークムント・フロイトが提唱していたエディプスコンプレックス」に取り憑かれます。シャアがその生涯に渡り亡き母の面影を追い続けたことは、まさにこれを暗示させています。
 シャアは、偉大なる父を「超えなければならない」、あるいは「父の理想を完成させるのは自分でなければならない」という妄執にかられていたように見受けられます。

 当初、この妄執は「(父ジオンを暗殺した)ザビ家を打倒しなければならない」という行動として現れていました。
 父ジオンの理想の継承者となるのは、あくまでも息子である自分であって、ザビ家というわけのわからないよそ者であってはならなかったのです。
 そして、シャア‥アズナブルが二番目に不幸だったことは、あまりにも多岐にわたって、尋常ではない才能を有していたことです。彼は、あまりにも「万能」「優秀」でありすぎました。
 彼の周囲に、彼より優れた人間がまるで見当たらないのです。
 このことは、成長の段階において、他人を見下すことしか学習する機会がなかったのと同じ意味を持ちます。

《挫折を知らない》ということは、その人の人格を歪めます。
 そして、心に欠陥のある人間にしてしまいます。
 砂糖を舐めたことがない人間には、砂糖の味はわかりません。
 苦しみを体験したことのない人間は、《苦しみ》の味がわかりません。
 誰かを本気で好きになるまで、「本当の恋は解らない」という事を知識では知っていても、優しさ、喜び、悲しみ、絶望といった他の感情も、これと同じだという事を自覚している人は極ひと握りしかいません。多くの人は、「そういうものは、最初から人間に備わっているものなのだ」と錯覚しています。そして殆どの人は「自分に心の欠損などあるはずがない」と思い込んでいるので、例え《本当の苦しみ》を知らずとも、《苦しみではないもの》を、苦しみだと仮定して、解った気になります。
 ですから、挫折を知らずに成長した場合、《他人の痛みを理解する能力》《他者を思いやる心》が欠如したまま、それでも「自分には欠陥などない」という認識の大人になります。
 そして、この種の「心に欠陥がある人間」の人生は、往々にして不幸なものとなります。
 しかも、時にその不幸は、周囲にいる他者を大勢巻き込む、壮絶な形の不幸となります。

 そんな彼が、一人の女性と出会います。
 ララァ‥スンです。
 彼女は、明らかに「人間の範疇を超えた能力」を持っていました。
《他者の心情を理解する》《未来を予知する》という、力を持った少女。
 彼女の能力は、自らの持つ「万能性」とは、違うベクトルのものでした。
 この時、彼は気がつくべきでした。

 父、ダイクンが提唱したニュータイプとは、彼女のような人間を指す言葉であって、自分は単なる「際立って能力の高い人間」に過ぎない。
 変種は変種でしかなく、その全てがニュータイプではないのだ、ということに。

 もし、他人よりも優れている=ニュータイプ、という単純な話であったならば、IQ240という超天才ギレン‥ザビもまたニュータイプとみなされるべきです。
 そして、ギレンをニュータイプと呼んで差支えが無いのであれば、ギレン=ザビ家が人類の指導者として父ジオンの後継者となったとしても、問題はないはずです。
 ですが、シャアにそれを認めるだけの器量はありませんでした。

 なぜ、シャアがニュータイプではないのか?
 それは、「他者の心情を少しも理解できない」からです。

 シャアにとって、他人とは、基本的には見下すか、利用するためのものでした。
 それは、ニュータイプの在り方として、決して容認されないものです。
 しかし、シャアは我が身を省みることが出来ませんでした。
 彼が、常に勝者で在り続けたからです。

 そして、シャアはその後に、もう一人の「特殊事例(変体)」と出会います。

 アムロ‥レイです。

 アムロは、戦闘能力に関して異常に発達した、ララァ‥スンとは別系統の
「特殊事例(変体)」でした。
 誰に手ほどきされたわけでもないのにモビルスーツを操縦した彼は、正規の訓練を受けてパイロットになったジーン、デニムを相次いで撃破し、次の戦闘ではシャア自らが操縦するザクを退けます。
 ですが、シャアは明らかに尋常ではないこのアムロという少年を、これまで他人に対してそうしてきたのと同じように、やはり見下してしまいます。
 目障りであるとは感じながらも、この少年が「自分より優れている」という認識を持つところまで至らないのです。

 ですが、アムロは急激に成長し、もはやシャアでは手に負えないほど強力となり、そしてついに、シャアから最も大切な存在であるララァを奪い、同時に「敗北」を痛感させます。
 そして、この少年アムロは、ア・バオア・クー内でシャアと人対人の、真剣を用いた決闘において、再びシャアに、絶対的敗北を体験させます。

 この時、シャア‥アズナブルという人間の生涯に、ひとつの「ピリオド」が打たれたといえるでしょう。ただモビルスーツの操縦が得意なだけの少年に、訓練され、天部の才を与えられているはずの自分が、何の言い訳も出来ない肉弾戦において、完敗したのです。

 直後、シャアは「ザビ家への報復」を果たし、そしてなんとか生き延びはするものの、それは、単に「運に恵まれただけ」の結果に過ぎず、この時点では、「もう、死んでも構わない」あるいは「返り討ちにあっても構わない」という思いだったと考えられます。

 ただ、運命はシャアに生きることを要求しました。
 シャアは復讐を果たした後、奇跡的に無事の生還を果たすのです。
 ですが、この時点でのシャアは、既に生きる目的を失っていました。
 することが何もないのです。

 この後、シャアがニュータイプとしての使命感に目覚めて父ジオンの意志を継ぎ、政治的指導者を目指したーーというのなら、それはそれで素晴らしいことなのですが、彼はそれと真反対の「ただの戦争屋」として、地球連邦軍に潜入し、連坊軍の内部抗争にのめり込みます。
 その際、止むに止まれぬ事情から彼は自らの素性を明かし、自分がキャスバル・レム・ダイクンであることを公に暴露しますが、またたく間に生臭い政治の世界に飽きてしまい、戦乱のドサクサに紛れ、全てをほっぽり出して「逃げ出します」

大破した百式
シャアがグリプス戦役当時愛機として登場していた【MSN100- 百式】 塗装色が金色という、兵器にあるまじき《ド変態》。この機体は、回収・修復された後、パイロットを変更したうえで再び戦線に投入された。キンキラキンのままで。(なんで再塗装しなかったんだろう? 金色のままじゃ、敵に発見される確率が高いだろうに)。
そして、この戦闘の直後からシャアの反乱と呼ばれる武装決起までの間、シャアは行方をくらませてしまった。

 彼は逃げました。
 逃げだしたんです。
 文字通りの、失踪です。
 完全な、責任放棄です。
(新番組への登場予定がないため、ここで作品から消したい。しかし、最大級の人気キャラクターであるため、殺すわけにも、無様に負傷させるわけにもいかない。といった諸々の大人の事情によって導かれた結論であったのでしょうが、逆にこれが、シャア・アズナブルという人物の本質を見事に示す良演出となりました)

 そして、ほとぼりが覚めた頃に舞い戻ってきた彼が何を始めたかというと。

「地球に隕石をぶつけて人が住めない星にする」
 という、常人には理解しがたい行動です。
 というよりも、彼自身さえ、どうして自分が隕石落としをしなければならないハメになったか、理解できていなかった可能性さえあります。

 人類が、種として存続し続けるため、母なる地球を永続させるため、生きとしいける全ての者と調和するため、誤解なく解り合う。
 それこそが、人の革新であるニュータイプであったはずなのに。
 シャアは、

 地球に人が住めなくなれば、否が応でも、全員が宇宙で暮らすことになる。
 これこそが「人の革新」だ。


 という、意味不明の回答にたどり着いてしまったのです。
(これが試験だったら、点数は0です)

 その行為は、かつて自分が憎悪の対象としたザビ家の所業(コロニー落とし)と、何も変わらない、愚策中の愚策であるということにも、気がつけなかったのです。
 いいえ。
 コロニー落としは、「一瞬で敵の軍事拠点を破壊する」という点で、まだ納得する余地がありました。しかし、「隕石を落として人類が地球に住めなくなる」というのは、軍事戦略でさえありません。「害虫駆除」の人間版です。正気の沙汰では、絶対に出来ないことです。
 そのぐらいのことはシャアだって理解していたはずです。自分のやっていることが、自分が憎悪したザビ家のやった行為と、何一つ変わらない、それどころかもっと悪い、ということぐらい、解っていたはずなのです。

 では、解っていたその上で、シャアはなぜ、そんなことをするはめになったのでしょう?

 それは彼が、

「ジオン軍は正義の戦争をやったんだ!!」
 と主張する人々の中に舞い戻って、リーダー役を引き受けてしまったからです。

 ネオジオンの総帥となるためには、ネオジオンのメンバーの主張を全面的に受け入れるか、そうでなければネオジオンのメンバーが賛同しうる、新しいビジョンを示さなければなりません。
 そして、シャアは、「新しいビジョン」は持ちあわせていませんでした。

 その結果、ネオジオンの内部に存在していた、「もう一度地球にコロニーor隕石をぶつけてやれ!!」という主張に、乗っからざるおえなくなったものと考えられます。
 そういう状況で、「ハイハイ」「解りました」「了承します」「応援してます」「一緒にがんばりましょう」「お任せします」「頑張ってくださいね」と部下たちが持ってくる書類にハンコを押し続けていたら、「隕石を地球にぶつける」という事が決定してしまったのではないでしょうか?

アクシズ、及びアクシズ艦隊s
小惑星アクシズと、ネオジオン艦隊。 (第一次ネオ‥ジオン戦争時) もともとは、資源確保のための資源衛生であったが、1年戦争中に軍事工場として兵器の生産を行う後方の軍事拠点となった。ジオン公国軍が地球連邦軍に敗北した後は、残存兵力の落ち延び場所となり、そのまま武装体制は維持され続け、むしろ兵器の刷新による戦力増強が行われた。ジオン軍の残党がこのような形で温存され続けた理由を説明する仮設の一つに、敵がいなくなってしまうと、地球連邦軍が予算を獲得する口実がなくなるから、というものがある)。シャアは、このアクシズを地球に落下させることで、地球を寒冷化させ、人が住めない状況を創りだそうと企てた。

 そして困ったことに、シャアは、とことんまで、「他人に関心がなかった」のです。
 地球に暮らす人が、どれだけ死ぬ事になるか、実感がわかなかったのです。
 だから、「あれから、もう一度よく考えたんだけどさ。やっぱ、あれはダメだろ。人間として」とは、言い出さなかったのです。

 そして、「フィフス・ルナ落とし」及び「アクシズ落とし」という地球に暮らす全ての人々に対する粛正案は、作戦として具体化され、実行に移されてしまい、この悪魔との取引とでもいうよな代償を支払うことで、シャアは、「新生ネオジオン総帥」という、「ジオン・ズム・ダイクンの息子」という名前に相応しい肩書を手に入れました。

 そう。
エディプスコンプレックス」のシャアは、「《父ジオン・ズム・ダイクン》に引け目を感じずにすむだけの立派な肩書」を、ここでようやく手に入れて、心の乾きを満たすことが出来たのです。

 つまり、シャアは、「ダイクンの息子」と釣り合いの取れる肩書を求めた結果、周囲の様々な要求に答えねばならなくなり、代償として「隕石落とし」という、ネオジオン内部にくすぶり続けていた願望を、実現してやるハメになったのです。
(そして悲しいことに、ネオジオン以外には、シャアが気に入るような肩書をくれる場所は、地球圏のどこを探しても存在しなかったのでしょう。仮に地球連邦政府の政治家になったとしても、「ジオンの赤い彗星」が志を同じくする同士を集め、組織を拡大させ、その組織力を背景にして高い地位にまで上り詰めることなど……、そんなことは、端から無理な相談なのです。勝ち目のない勝負が嫌いなシャアは、だから、自分が決して勝者になることの出来ない"政治"という無理ゲーに耐え切れず、投げ出したのです)

 シャアが自分に相応しいと思える肩書を用意してくれる組織は、ネオジオン以外にはなかったのでしょう。
 そして、そのネオジオンの総帥になるためには、「地球に隕石を落とす」という主張を受け入れる以外に道がありませんでした。

 だから、シャアは「隕石落としを強行した」というワケです。
 そして、シャアは自らがニュータイプであると信じているので、彼の中で2つの思想が必然的に交じり合い、「地球に隕石を落とすことこそが、人類を革新に導く行為だ」という、まともな人間が聴いたら絶対に「お前、頭おかしいよ。病院行きな」
「なんでそういう結論になったか、図に書いて再確認してみな。絶対、どっかで間違ってるから」と感じるような、あるいは、日本ト学会が飛びつくようなトンデモ理論を展開してしまったのです。
(肩書が欲しかったわけではなく、モビルスーツで戦争ごっこをやりたかったという可能性もあります)

 ここまで行ってしまうと、もはや、りっぱなカルト宗教です。
(というか、オーム真理教は、逆襲のシャアに、ものすごく影響を受けてたんですよね、当時、ものすごく騒がれたんです)

 つづく

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Posted bysusa

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