そして、《変態》という人種が生まれた――⑥

susa

そして、《変態》という人種が生まれた――⑥
ララァ・スン・M
「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」 アニメ用設定画」より


 
この記事は《そして、《変態》という人種が生まれた――》の続きです。


 宇宙世紀の思想的指導者ジオン・ズム・ダイクンの長男として生まれたシャア・アズナブル(本名キャスバル・レム・ダイクン)は、父ジオンの在命中は、その血筋の良さと自身の才能によって、幼いはずの自分に対して上目遣いで接してくる周囲の大人たちを、「愚鈍な存在」「劣った人達」などと、心のどこかで見下しながら成長していったのでしょう。
 父の死後、今度は母親とも引き裂かれ、不遇な少年期を遠い地球で過ごすことになりますが、ここでも彼にとっての大人、あるいは世界というものは、あまりにも乾ききっていて、殺伐として、そのため、彼はひたすら孤独であったに違いありません。
 理解者不在、という奴です。
 彼には妹のアルテイシアがいましたが、シャアの理解者となるには稚すぎましたし、彼女は自分の周囲から希望を感じ取るセンスを持ち合わせていました。
 しかし、シャアはそういう他者の優しさに、鈍感すぎたのです。

 シャアは父を殺害したザビ家に対する復讐で、自らの孤独を埋めようとジオン軍の士官候補生になる道を選びます。軍で出世すれば、軍の最上層に君臨するザビ家に近づけるからです。
 ですが、紆余曲折の果てに、彼は士官学校を去らねばならなくなり、単身地球へと渡ります。

 そして、地球で一人の少女と出会います。


大変態》、ララァ・スンです。

 大変態ですので、このララァという少女は当然常人にはない特別な能力を持っていました。
 予知能力と、さらに他人の心をも感じ取る力。もはや、片っぽの足は、人類という枠の外側にはみ出してしまっています。
 彼女はおそらく、シャア・アズナブルが生まれて初めて遭遇した、自分よりも格上の生命体です。そして、シャアにとっても、ララァにとっても、二人の出会いは生涯で最も「大切」な相手との遭遇だったはずです。

 そして、シャアもララァも、お互いが自分にとって「無二の存在」「他の何者にも代えがたい相手」だという認識は、出会った時点で感じ取っていたはずです。
 二人にとって、何よりも不幸だったのは、二人が共に、少しだけ幼すぎた、ということでした。

 100億を超える人類の中に、数人居るか居ないかというレベルの
変態》同士が巡り会えたのです。この出会いこそ、二人にとっての「神が与えてくれた生涯最大の奇跡」だったのです。
 しかし二人は、そのことに気がつく事が出来ませんでした。
シャアとララァ「どこ?遠いところって……」
「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」 シャアがララァを「所有者」から奪って逃げる場面
 もし、シャアが自分が生まれてきた意味を「復讐」以外の別のものだと考えていて、この出会いがまさにソレだと、この時に理解できていたら…… 宇宙世紀の歴史は、全く違ったものになっていたでしょう。


 古い人類のことなんて投げ捨てて、新しい人類種として、誰もいない世界へ逃げればよかったのでしょ。
 それは、楽園を追われたアダムとイブのようでもありますが、 この二人なら、それでも生きて行けたでしょう。なんたって、《人類最強の変態》ですから。


 けれど。
 シャアは今までと変わる事なく、「復讐」というくだらないレールの上を歩み続けてしまいました。
 ララァは預けられ、後に軍に「ニュータイプ部隊の候補生」として半ばモルモット的な境遇に置かれます。
エルメスYEN300-1/500_組み立て説明書
「ララァ専用モビルアーマー」ことエルメス(右)とシャアの搭乗したゲルググ(左)
1/500スケールプラモデル・完成見本写真より
第一次ガンプラブームの時点で発売されていた、定価300円のガンプラ。なのですが、今見ても十分納得のクオリティー。
もう、コレは
明らかに、変態》
ララァは、このエルメスに搭載された遠隔兵器「ビット」を操り、、連邦軍の戦艦・巡洋艦数隻をいともたやすく撃沈させ、この現象の正体を把握できていなかった地球連邦軍側は、これを《ソロモンの変態》、もとい、「ソロモンの亡霊」と呼んで恐怖した。

 ですが、
大変態》であり、最強の戦士》であったはずのララァは、ごく平凡な一兵士と同じように、「戦死」という形であっけなく散ってゆきます。
ララァ・スン「死亡時」s
「機動戦士ガンダム」より

 そうして、シャア・アズナブルがララァ・スンという女性の存在がどれほど大切なものであったのかを痛感したのは、ララァの死後のことでした。シャアはおそらく、「自分より優れたララァが死ぬなど、あり得ない」とでも、心のどこかで思っていたのでしょう。
 しかし、ララァ・スンは、肉体的にはありふれた普通の少女でしかありませんでした。

 くり返しになりますが、二人が出会った時、シャアは復讐などという不毛な道から、人生の軌道を変更し、ララァと生きる道を歩んでゆけば良かったのですよ。
 結局、シャアは生涯、ララァを失ってしまった事実に、呪縛として縛られて生きてゆくことになります。

 つづく。

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Posted bysusa

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